IT業界における定年説の真実~少子高齢化から見えてきたこと

技術・開発

IT業界、特に技術者について「35歳定年説」というのを聞いたことがあるだろうか。
時としてその年齢は30歳だったり、40歳だったりするが、一般的な60歳前後の定年退職年齢よりはるかに若い年齢が技術者の定年としてあるという説だ。

その年齢を超えると技術者としてはポンコツになるので、管理職にステップアップするか、そうでないものは落ちこぼれて他の職種へドロップアウトするか、しないといけない・・・らしい。

果たしてこの説は真実だろうか?
資料を基に検証してみた。

結論を先に述べると、これは大嘘である。

たとえば囲碁や将棋の棋士も頭脳労働の職業であるが、40歳、50歳でも強い棋士は山ほどいる。
勝率的にも若い棋士に負けていないのだから、IT業界だけが特別な定年を持つなど考えにくい。

そもそも今回のネタを思いついたのは、どうする?50代SE – 増え続ける50代SE、減る20代と30代というITproの記事を読んだからだ。

上記の記事では厚生労働省の資料を基に、増える50代と減る若手をグラフで示している。

情報サービス産業の年齢構成 データ出所:賃金構造基本統計調査 (厚生労働省)

情報サービス産業の年齢構成
データ出所:賃金構造基本統計調査(厚生労働省)

上記グラフでは 2006年に全体の10%未満だった50代が 2016年には 15.5%へ増えていることを図示している。
また同様に、20代が10年前の約33%から20.9%に減った、とある。

そして、

歴史の長い大手のSIベンダーは (中略) 50歳前後となるバブル期(1990年前後)の採用者が多く (中略) 50代の割合は2~3割ほどになる。

と解説している。

少子高齢化

ITProの記事だけを読むと、なんだか50代が急にどこかから湧いてきたような印象も受けるが、もちろんそんなことはない。

このグラフが示していることは、日本全体に広く等しく少子高齢化の波が訪れているという事実なのだ。

この手の世代構成をグラフ化したときに忘れてはいけないことが1つある。

人間は歳を取る。ということだ。

すなわち10年前の「20代」は現在において「30代」になるし、今の「50代」は10年前に「40代」だった。

だから ITProのグラフのように 2006年と2016年の「同じ世代」を比較するのはあまり意味がない。
日本の総人口における年齢構成が「団塊世代」と「団塊ジュニア」が突出する、いびつな形になっている以上、そりゃあ若い者は激減するし、団塊ジュニアが歳を重ねるごとに「最も人数の多い世代」も上へずれていく。

2017-07-05_generation3

2017年現在の日本では、30代の人口と比べて、20代の人口は2/3程度だ。

ということは、新卒社会人のうちIT業界を選択する人間の割合が10年前と変わっていなければ、IT業界の20代の割合も、30代の2/3になるということである。

加えて、「2006年」に50代を迎えるようなベテランは谷間(段階ジュニア以前)にあたるため総人口が元々少ないし、2000年以前はIT業界に入る人が少なかった。

そういう目線で改めてITProのグラフを見れば、昔から世代構成が変わらず、そのままスライドしていっただけ・・・と分かるだろう。

ドロップアウトする人々

それではITProのグラフは、日本の少子高齢化を単に示しただけなのだろうか。

いやいや決してそんなことはない。
あらためて世代の移り変わりに注目してみると、1つの興味深い事実が示されているのだ。

たとえば「2006年の20代」と「2016年の30代」を比較してみよう。
10年経って歳を取ったのだから、この世代の構成比は普通なら変わらないはずだ。
ITProのグラフでも、ほぼ減っていない。

しかし同様に 30代→40代 40代→50代 を比べてみると、それぞれ2割程度減少しているのだ。

ITProのグラフに追記

ITProのグラフに追記

そう。このグラフが示している最も興味深い点は・・・少子高齢化とか50代が相対的に増えたとかではない。

30代から40代に歳を取る間に、およそ2割の技術者がドロップアウトしているという事実である。

そしてさらに40代から50代で、やはりまた2割減っていく。

IT業界定年説の真実がここにあったのだ。

その真実とはすなわち

技術者は30歳を超えると、10年ごとに20%の割合で他業種へ抜けていく

ということである。

30代の定年というものは無い。しかしながら、10年で20%の技術者が業界に見切りをつけるのだ。

これが真実である。

これからのIT業界に必要なこと

IT技術者の需要は今後ますます拡大していく一方だと言われている。
そのため最近ではIT業界を選べる若者を増やそうとプログラミング教育をようやく学校でも扱うようになるらしい。

が、現時点ですでに材不足が叫ばれるIT技術者を増やすという意味では、その子供が育つのを待っているのでは間に合わないだろう。

では今、どうすべきか。

なにより対処すべきなのは、これから10年で2割減るであろう、団塊ジュニアの技術者をいかに業界へ引き留められるか。それが最も重要に思われる。

 

ということで、もし今後どこかで技術者の定年説を聞いたらこ答えてあげよう。

「定年というのは嘘だよ。だけど10年ごとに2割ずつ・・・30越えのベテランが消えていくのさ」と。

 

(注記) なお50代が増えて20代が減った分、それ以外の世代の割合は増加していないと行けないので、本来なら2割よりもっと減少しているはずだ。おそらく4%ほど。合計24%の減少ぐらいか。
しかしながら2006年から2016年までにIT業界全体の人数が約5%増えているので、その分を足してみれば、どんぶり勘定だがやっぱり2割前後に落ち着く。
まあ・・・細かいことは気にしないでくれ、ってことである。

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